「あと」作品 - 東郷仁美
作品のテーマは共通して「思い出せぬ穴」です。現在、日常の中 でふと目にとまった気づきをモチーフにして作品を制作しており、以前にもコバエやア リといった身近な虫をモチーフに、その行動や存在感をインスタレーションの手法 を用いて作品にしました。テーマの「思い出せぬ穴」は、自宅の壁に開いていた小さな穴をモチーフとしています。壁の穴というと、普段目を向けることもなく、開けられた理由も存在していたことも忘れていたようなものなのではないでしょうか。しかし、 改めて考えてみたとき、その穴はきっといつかの誰かが開けたものであり、それ からずっとそこに存在し続けていたことに気づきました。特に自宅のものは、過去の自分や家族か誰かがなんらかの理由で開けた穴です。生まれた時から暮らしてきた我が家の歴史の一つがそこに見えてくるような気がして、なんでもないただの穴も私にとって気になる存在になりました。いつなぜ開けたのだろう、なにで開けたのだろうと考えたり眺めたりしながら、モチーフと向き合い、制作する時間の中で得た感覚が少しでも見る側に伝わればと思っております。
東郷仁美